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[[ソフトマターの多階層/相互接続シミュレーション]]

* 研究の背景 [#p19eec27]

** ソフトマター科学の歴史 [#z6d33ccc]
ソフトマターは柔らかく複雑な物質(高分子、液晶、ゲル、コロイド、膜や界面活性剤などを含む物質)を総称する新しい言葉であるが、その背景にはしっかりとした歴史がある。統計力学に立脚した液体論は、いわばソフトマター科学の先駆けであり、理想化された単純液体について大きな成果をもたらした。久保の線形応答理論や森公式、川崎のモード結合理論などこの分野で日本人の貢献は大きい。液晶や高分子など複雑な系の理論的取扱いについてはフランスのde Gennesが成功し、1991年にノーベル物理学賞を受賞した。ソフトマターという言葉はその受賞記念講演で用いられたことにより、それまでの複雑流体という言葉に代って使われるようになった。日本でも土井、小貫、太田といった優れた人材が現れ、主に理論分野で世界のソフトマター研究をリードしてきた。本研究提案は過去にこれらの人々のもとで学び、現在それぞれ異なる手法でソフトマターのシミュレーションに取り組んでいる4人の研究者の共同提案である。
ソフトマターは柔らかく複雑な物質(高分子、液晶、ゲル、コロイド、膜や界面活性剤などを含む物質)を総称する新しい言葉であるが、その背景にはしっかりとした歴史がある。統計力学に立脚した液体論は、いわばソフトマター科学の先駆けであり、理想化された単純液体について大きな成果をもたらした。久保の線形応答理論や森公式、川崎のモード結合理論などこの分野で日本人の貢献は大きい。液晶や高分子など複雑な系の理論的取扱いについてはフランスのde Gennesが成功し、1991年にノーベル物理学賞を受賞した。ソフトマターという言葉はその受賞記念講演で用いられたことにより、それまでの複雑流体という言葉に代って使われるようになった。


** ソフトマターのシミュレーション [#fd5eebfb]
シミュレーション技術から見たときのソフトマターの特殊性は、緩和時間の長さにある。高分子系では分子が巨大で分子間のからみあいがあるために100−1000秒におよぶ緩和時間を示す。コロイドでは粒子の大きさだけでなく周囲の流体やイオン雰囲気による長距離相互作用のために大規模な協調運動が起こり、高分子と同程度か、さらに長い緩和時間を示す。高分子およびコロイドの長時間緩和現象は通常の分子動力学シミュレーション等で解ける時間範囲ではないので、それぞれに独特なメソスケールの理論モデルが構築され、シミュレーション技術が開発されている。


**科学と工学の間の高い壁 [#t804ab57]
これらの理論モデルは系の物理的な普遍性を抽出しているため、物質の化学的組成などは非常に大ざっぱな物質パラメーターに押し込められている。このため新規の物質を設計開発する際に、どのようにして物質パラメーターを決めればよいか、その処方箋がない。また、計算も通常無次元化されて行われ出力結果も無次元であるため、プロセス設計に生かせるだけの情報を取得しづらい。従って従来の研究は、すでにある実験結果の再現ができているかどうか、モデルそのものの物理化学が正しいかどうかの検討、あるいは純粋に科学的・学術的な興味からのアプローチが主なものであり、材料設計、プロセスのためのツールとして使える段階に至っているとは言い難い。

**多階層/相互接続シミュレーション [#ebf6ec51]
このような高い壁はソフトマター分野のみならず、計算科学の最先端に広く存在している。これを克服するためには一般的・網羅的なアプローチではなく、具体的問題に特化した槍の矛先のようなアプローチが有効だと我々は考える。有効な解決策を1つ示すことが出来れば、同じような手法で解決出来る問題は少なくないはずである。本研究では、典型的なソフトマターであり機能性材料として重要な高分子系とコロイド系に特化して、分子動力学法(ミクロ)、高分子用シミュレータ(メソ)、コロイド用シミュレータ(メソ)、プロセスシミュレータ(マクロ)を相互接続し、材料設計に活かせるシステムの構築をもくろむ。ミクロとマクロをいきなり接続するのは難しいが、ソフトマターでは両者の中間にあたるメソスケールのシミュレーション手法が発達しており有利である。この利点を活かし、物理化学的な記述が異なる各モデル間の接続理論、接続手法を開発・確立する。


**解決可能な問題(工学的) [#qecee79e]
相互接続シミュレーションにより、物質の化学的な個性と系が示す物理的な普遍性をつないだ予測計算が可能となる。従来計算手法がない、コロイドや固体粒子を含む高分子液体、多価イオンを含んだイオン強結合溶媒へのコロイド粒子分散系のシミュレーションが可能になる。高分子およびコロイド材料は先端科学から日常生活まで我々に深く関わる系であり、日常生活で見られる端的な例はプラスチック、塗料、食品、などである。また先端科学分野では有機ELに代表される機能性高分子、ナノ粒子の分散系などがある。一部の先端技術は既に製品化が行なわれているが、例えば電子インクのように改善の余地があるものも少なくなく、シミュレーションによる問題解決が望まれている。

**解決可能な問題(理学的) [#edb83d7c]
相互接続シミュレーションにより、純粋に科学的な問題のいくつかが解決する。高分子のからみあいは分子の運動を規制する幾何学的な束縛と定義されるもので、1970年代のde Gennes、Edwards、土井らの理論から高分子の運動の根本として考えられるようになった。しかし構造解析では観測されておらず、またからみあいの基本単位長さで定義される体積中に20本程度の隣接高分子が含まれるなど、分子論的な描像は明かでない。からみあいのミクロな記述は高分子物理化学の重要なミッシングリンクであり、からみあいで記述される高分子の普遍性と、高分子の化学構造とを接続する鍵である。そのほか、生物科学や物理化学の分野で重要な現象である電気泳動についてもこれまでに解明されていない問題が多く、相互接続シミュレーションによる解決が期待できる。