研究計画とその進め方

概要

1)分子動力学拠点、2)高分子拠点、3)コロイド拠点、4)プラットフォーム/プロセス拠点の4研究拠点を置き、それぞれの拠点が開発した異なる階層のシミュレータの相互接続を主な開発項目とする。本研究チームの特色として、各研究拠点がきわめて独自性の高いシミュレータの開発で実績を挙げており、個別の階層のシミュレータの開発に削く労力を最小化して本研究の重要な目標である新しい多階層相互接続シミュレーション法の確立に集中できる利点がある。 階層間の接続手法の開発は、各拠点のもつ基盤技術を生かしながら相互に連携して進める。

開発項目1:分子動力学シミュレーションとコロイドシミュレーションの接続

山本がさきがけ研究で開発したコロイド分散系のメソスケールシミュレータKAPSELでは、ミクロ階層を統計力学的な近似理論を用いてメソ階層に吸収している。しかしこのような近似理論による取り扱いが難しい問題も多い。例えば多価イオンを含む電解質溶液ではイオン強結合の状態が容易に実現し、強く相関した個々のイオンによりコロイド粒子間の相互作用も大きな影響を受ける。場合によっては同一符号の電荷を持つコロイド粒子間に静電引力が働くといった奇妙な現象が起こるが、このような場合に有効な近似理論は全くない。

メソ階層に対する山本のシミュレータとミクロ階層に対する泰岡の大規模分子動力学(MD)シミュレータとを相互接続することによってこの問題を根本から解決しようというのが開発項目1の趣旨である。空間を分割してミクロ階層とメソ階層を力学的に接続するのは困難であるが、以下の様に自由度をイオンとコロイド・ホスト流体に分割し、それぞれミクロとメソでモデルを与えることで統計力学的に矛盾のない独自の手法を開発する。

高分子媒体の場合、流動・変形と応力とを関係付ける構成方程式をモデルとして近似式で与える必要があったが、単純な場合を除いて現実の高分子媒体の挙動を広く表現しうる構成方程式のモデルは存在しない。この場合に有効なシミュレーション手法を開発すべく、高分子濃度や媒体の流速を与えるメソ階層と高分子鎖のダイナミクスを与えるミクロ階層を連結する。高分子の分子量が大きい場合はミクロ階層での計算が膨大になるため、泰岡の分子動力学を増渕の粗視化高分子シミュレーションに置き換えることで対処する(この相互接続を開発項目1’とする)。

開発項目2:分子動力学シミュレーションと高分子シミュレーションの接続

増渕により開発されている粗視化された高分子シミュレーションNAPLESに化学的な一次構造の効果を大規模分子動力学シミュレーションにより付与する。具体的には、高分子シミュレーションの単位長さと単位時間を、分子構造が与えられた系について統計的手法により求める手法を提案する。

増渕の高分子シミュレータは高分子の絡み合いに注目して粗視化されたレプテーションモデルに基づいており、シミュレーションに使用する単位長さと単位時間は、高分子の絡み合い構造を特徴付ける長さとその運動を特徴付ける時間である。これらの量は高分子の1次構造や構造解析からは決めることが出来ないため、粗視化シミュレーションと現実の物質との定量的な対応をつけることは簡単ではない。現状では、実際に流動を与えるなどして得た両者のレオロジーデータを比較し、間接的に対応づけている。実験データが豊富な系では、高分子の1次構造、あるいは流動や変形条件を変えた場合の物性予測をすることは可能であるが、新規に合成された物質では不可能である。また、異種高分子の混合系や共重合体では、化学的な成分ごとに異なる長さスケールと空間スケールが混在するために、レオロジーの実験データがあったとしても絡み合い構造と1次構造との対応づけは難しい。

本研究では大規模分子動力学(MD)シミュレーションとの接続によって、この問題の根本的解決を図る。まず、絡み合いを特徴付ける長さについてはEveraers et al (Science 2004)で提案された手法(からみあった高分子系をMDシミュレーションで構築し、分子を個別に引っ張ることで、レオロジーデータを経由せずに直接ミクロな情報から絡み合い長さを抽出)を用いる。次に、時間スケールについては上記手法で得られた絡み合い構造単位に切った多数の高分子からなる系に対して大規模分子動力学法を行い、その系の緩和時間を求める。これらを単位長さ・時間としてミクロ階層からメソ階層に渡す。系によっては実時間でミリ秒程度となることから、ミクロMD法だけではなく中間にDPD法や粗視化MD法も用いる必要がある。さらに、メソ階層からミクロ階層へ高分子鎖の局所的な変形や流動を渡すことや、緩和時間の温度依存性を流動の活性化エネルギーにより決定する手法も検討する。

開発項目3:コロイドシミュレーション・高分子シミュレーションと材料・プロセスシミュレーションの接続

材料・プロセスシミュレーションでソフトマターの挙動を正しく反映するためには、物質固有の複雑な構成方程式(流動・変形と応力との関係式)を用いる必要がある。しかし、多種多様なソフトマター一般に有効な構成方程式は存在しないし、現実のプロセスでは大きな非平衡状態に達することも多いために困難はさらに大きくなる。そこで、あらかじめ構成方程式を決めておくのではなく、プロセスシミュレーションとコロイドおよび高分子シミュレーションとの接続を考える。

開発項目4:プラットフォームの開発

ミクロ階層・メソ階層・マクロ階層が物理的に矛盾なく相互に影響し合う真の多階層/相互接続シミュレーションを実現するためには、大規模分子動力学シミュレーション、高分子シミュレーション、コロイドシミュレーション、プロセスシミュレーションの入出力を共有化し、相互の連携ツールを実装するためのプラットフォームの開発が不可欠である。具体的には、OCTAプロジェクトで用いられているオープンソースプラットフォームであるGOURMETをベースまたはその設計を参考として、階層間の多段階カスケード接続を実装した上位互換プラットフォームを開発する。

OCTAはNEDO大学間連携プロジェクトによる高機能材料設計プラットフォーム開発プロジェクト(H10-13、プロジェクトリーダー土井正男教授)の成果物で、無料公開されているオープンソースソフトウエアである。OCTAは複数のシミュレータの集合体であるが、それらを統括するのがプラットフォームGOURMETである。 GOURMETによってNEDOプロジェクトおよびJSTのCRESTで行われているバイオレオプロジェクト(H15-)で開発された様々なシミュレーションソフトウエアを共通のユーザーインターフェースで利用することができる。

本プロジェクトでは既に実績のあるプラットフォームGOURMETをベースとして、大規模計算と高速データ授受に対応出来るように改造する。GOURMETは優れた設計思想に基づいているが、グラフィックスとデータ入出力が弱く、特に大規模なデータをやり取りすると極端に低速化するために、そのまま本プロジェクトに利用することはできない。そこでGOURMETの基本設計を踏襲しつつ、上位互換の次世代プラットフォームを新規開発する。

開発項目4