天然ゴム伸長結晶化の高速時分割X線解析
天然ゴム(NR)は優れた機械的耐久性を示すが、それには伸長結晶化による補強効果が関係する。NRの伸長結晶化やゴム弾性については高分子科学の黎明期から研究されており、様々な理論が存在する。しかしながら、実際に用いられている非理想的な試料については、未だに分子鎖のネットワークが伸長して結晶化を誘起するプロセスや、伸長誘起結晶への応力伝達について定量的に説明できる力学モデルが確立されておらず、補強効果の分子論的起源も理解されていない。我々はNRの硫黄架橋体について、放射光を用いた高速時分割X線回折と応力の同時測定を行った。その結果、伸長応力に対して結晶格子がリニアに変形している事や、結晶化が応力緩和に大きく影響している事が明らかとなった。また、ネットワークを形成するゴム分子の伸長結晶化についても、折り畳み鎖結晶の形成されている事が示唆された。伸長結晶化の挙動と応力、網目鎖密度の関係について、ゴム弾性論的な自由エネルギーの記述では根本的に説明できないと分かった。この事は、NR架橋体の伸長結晶化に関して連続体近似が適用できないためだと考えられた。